starressのブログ

日々の、出来事を何となく綴りたいと思います。

家出娘とトーキングインユアスリープ

1990年

会社に新入社員の梨沙ちゃんが

入って来た。

綺麗で大きなひとみが

印象的な娘だ。


しばらくして、彼女を狙っていた

同じ社員の隆志が、梨沙ちゃん

と、付き合い始めていた。

まだ幼い感じが、残る彼女は

とても、初々しくて素直で可愛い

娘だった。


ある日、仕事を彼女に教える事になり

俺は一生懸命梨沙ちゃんに 

教えていた。

彼女が分かるように、優しく丁寧に

ユーモアを交えながら、数日が

過ぎていた。

やがて彼女は、俺が来るのを心待ち

するような、仕草をして、顔を見たら

満面の笑みで挨拶してくれた。

そして誰もが


『梨沙ちゃん貴方の

事気に入ってるみたいよ、』


と言ってきた。


梨沙ちゃんも、初々しくて可愛いし

内心嬉しかったな。



この頃俺も結婚していて、既に

マイホームや子供も二人居て、普通に

結婚生活を送っていた。


しばらくして、隆志と梨沙ちゃんが

別れたと聞いた。


梨沙ちゃんが゛貴方が理想の相手だって

嬉しそうに言ってたらしいよ。゛

貴方みたいな人と、付き合いたいって

皆に言ってたよ。



と言われ始めていて、自分としては

半分困った話だった。


案の定、隆志が俺の所にやって来た。


『貴方のおかげで、俺は彼女と

別れる事になったんだ。

どうしてくれるんだ!』


と、喰って掛かって来た!


『おいおい!別に俺は彼女に、

何も言ってないし、言われもしてない。

、俺のせいだと、言われても.....』


『俺は何も関係ないよ』


とはっきり言った。


憮然としながら、隆志は立ち去って

行った。


隆志と言う人間は、お金に卑しくて

1円2円にこだわる、セコい奴。

言葉の端々に、その片鱗を伺わせ、

下品な笑い声をあげたりする。

だから、振られても......仕方ないかも

だよ。


実際彼女からは、

好きだとか

一言も

言われてないのだから.....

どうもこうもない.....



ミーティングで梨沙ちゃんと

一緒になる事があり、

立ちながら話をしていたら、

突然梨沙ちゃんが貧血を起こして

俺のすぐ隣で倒れてしまった。

頭を強打した感じで、うっすら

出血もあった。

彼女は意識を失い、救急車で

搬送することになった。

ブラウスのボタンがきつそうなので、

他の女子が、軽く胸をはだけた感じに

なった。

うっすらと、胸の膨らみのシルエットを

感じながら、不本意だがその姿は

艶かしかった.....

すぐ隣に居たと言う事で、救急車の

付き添いは俺が行く事になった。

やがて意識を取り戻した彼女の

目はうつろな状態で、

焦点が定まってなかった。


『大丈夫?突然倒れてしまったんだよ』


『頭を打ったけど痛くない?』


と言ったら、涙を流して、不安そうに

してたので、手を握って


『大丈夫だよ、大丈夫!』 


と励ますと、ちょっと安心した

顔をした。

また目からは涙が、溢れてきた。

彼女の手は凄く柔らかでビックリ

したけど、とても冷たかった......


梨沙ちゃんは目を閉じて

じっと、そのまま

救急車を待っていた。


病院に搬送して、家族に引き渡して

彼女に、


『頭痛いよね、ゆっくり休むんだよ、ただの、貧血みたいだから良かった』


『じゃあまたね、会社に戻るからね

            梨沙ちゃん』


ゆっくり手を振って、彼女も軽く手を挙げた。

お母さんに、事情を告げて


『お大事に』にと


言うと、深々と頭を下げられた。


数週間後、彼女は会社に復帰した。


『この前はありがとうございました。』


『いやいや、無事で良かったよ

    頭痛くない?大丈夫かな?』


『はいもう大丈夫です。』


『結婚されてるんですよね.......』


『うん.....子供も二人いるからね』


『可愛いんでしょうね.*.』


『うん住宅ローンもあるから大変だよ』


『そうですよね......』


彼女と会社で会ったのは、

それが最後だった。


程なくして、彼女は無断欠勤が続き、

自宅から、行方不明になったと連絡

が入った。

警察に捜索願いが出され、約1か月後

に他県で、男性と失踪していたのが

発見された。

何故、あんな素直な娘が....

ショックだった。



貴方が結婚してたから、

諦めて.....変な男に

捕まってしまったんじゃないの?

と口々に言われていたが、

真相は分からない。

結局梨沙ちゃんからは、一言も

何も言われなかったのだから.......



後に彼女はひっそりと会社に来て、

退職したと、報告があった。



1年後くらいに、ヨーカドーでばったり

梨沙ちゃんと出会った。

母親と二人で買い物に来ていたらしい。

自分は家族と一緒だった。


目と目が合ったら、彼女は恥ずかしそうに

一瞬下を向いたが、にっこりと笑い

俺を見つめていた。


『元気そうだね、梨沙ちゃん』


『はい』


『お母さんと買い物?


『はい』


『良かった、安心したよ』


『はい』


軽く会釈して、そのまますれ違った...


嫁が『会社のひと?』


と聞くので『元...ね』


と、答えて


『ふ~ん』


と怪訝な顔をしていた。


梨沙ちゃんとは、それが最後でもう

見かける事は2度となかったが、


幸せでいて欲しいな.....


梨沙ちゃんに

1983年の、ロマンティックス

トーキングインユアスリープを

送りたいです....